その昔、中国語通訳の勉強をしていたときに「通訳を目指すなら絶対に現地に行くべき」というアドバイスを受けて海外向け人材紹介会社に登録したところ、あれよあれよというまに上海での就職が決まってしまった。
会社の下見のため上海を訪れた際、上海留学中にルームシェアをしていた元ルームメイトのフーリンに再会。上海で働くことを伝えるととても喜んでくれたのが、すごくうれしかった。
その後のメールのやりとりで、部屋が見つかるまで少し住まわせてほしいとお願いすると、快く承諾してくれた。
それから、1ヵ月ほどたった頃、フーリンから突然「引っ越した」とメールが届いた。「わりと便利な立地の2LDKの家を買ったから、その家に一緒に住んでもいいよ」というのだ。
願ってもない提案に私は大喜びした。留学中の楽しかった思い出がよみがえる。フーリンとまた一緒に暮らせるなんて最高じゃないか。物価の高い上海では金銭的にも助かるし、何より心強い。これから始まる上海生活に期待が膨らんだ。
それから20日ほどたった頃、またメールが届いた。彼氏と同棲を始めたというのだ。「彼氏と私は同じ部屋を使うから、TUGUMIはもうひとつの部屋を使って。いいかな?」
ん…?
その次のメールには、「TUGUMIが使う予定の部屋は引き戸だし、あまり大きくないの。実際に見て気に入らなかったら部屋を探してね」と。
…雲行きが怪しくなってきた。こ、これは歓迎していないことを暗に伝えているのでは?
そこで、フーリンの気持ちを探る意味も込めてメッセージを送った。「同棲中のところ申し訳ないので、私は別の部屋を探すことにする。しばらく住まわせてもらって、生活と仕事に慣れてから部屋を探したい。いいかな?」すると返事は「私もそう思う」だった。
ああ、やっぱり…
こうして、フーリンちゃんとの楽しいルームシェアの夢はあっけなく消え去り、私は同棲する2人にとってお荷物の居候の身分に転落した。
実際に一緒に生活をしてみると、フーリンとは気心の知れた仲だし、フーリンの彼氏に邪険に扱われたわけでもない。だが…いちゃいちゃするカップルと共に生活するのは結構つらい。私が上海に来る前から2人の同棲は始まっていたから、すっかり2人のペースができあがっている。私のお邪魔感は相当だった。
こうして私は自分で部屋を探し、1ヵ月ほどでフーリンの家を後にしたのであった。部屋が見つかるまで住まわせてもらって本当にありがたかったが、正直かなりきつかった。
その半年後、2人は結婚した。
中国の展開の速さは半端ではない。えっ、えっ、と言っている間に状況が変わっていく。こちらは変化に応じて対応していくしかない。中国ってこういうところだったと改めて思い知らされた。初っぱなから、なかなか精神的にハードな中国生活のスタートだった。
フーリンの結婚式に参列した日本人の友人に「一緒に住むはずだったのに」と不満を漏らすと、「彼からしたら彼女が友人と一緒に住むと聞いたら、そりゃあ焦るわよ。何としてもルームシェアを阻止したかったのね」と彼に同情されてしまった。
でも、でも…こうも考えられないだろうか。私の出現ににより思いがけず2人の同棲が始まり、急速に関係が深まって結婚するに至ったのだと。その後、2人は家族向け新居に移り、子宝にも恵まれ、幸せな家庭を築いている。これって、邪魔者の私がいたからこんなスピード展開になったともいえるはず。
とすると、実は私は、2人を恋愛から結婚に発展させた「愛」のキューピッドだったのかも。