見上げた北京の青空

随想録

 中国は灰色の世界だった。

 2015年夏、上海のから北京の会社へ転職が決まった。希望の会社から内定をもらったにもかかわらず、いざ北京に行くとなると、私は思い切り怖じ気づいた。

 あれだけ深刻な大気汚染が日々報道されている北京に本当に行っていいのだろうか。日本で見たテレビでは少し先も見えない高速道路が映し出されていた。仰々しい手作りの防護マスクをつけている人も見たと思う。

 上海で見る景色もいつももやがかかってたが、北京はもっと深刻だといわれていた。北京の大気汚染の状態を示す「大気汚染指数(AQI)」の値は上海の比ではない。内定をもらってから2週間近く回答を待ってもらうほどに、本気でビビった。

 ようやく覚悟を決め、北京行きの飛行機に乗った。ビザの手続きのため日本に一時帰国した分、窓から眺めた北京はよけいに空が重く感じる。日本で買い求めた粉塵マスクを装着し、空港に降り立った。顔に食い込むマスクが痛かったのを覚えている。

 冬になると、大気汚染はさらに悪化した。工場のばい煙、自動車の排気ガス、そこに暖房のために使われる大量の石炭が追い打ちをかける。毎日スマホでチェックする大気汚染指数は、「有害」を表す赤色、「非常に有害」を表す紫色なんて日常茶飯事だ。「危険」を表すエビ茶色になるとビビりまくった。

 室内では空気清浄機、外出時には防塵マスク。数十メートル先も見渡せない。

 どんより曇った空を見て思ったことは

「世紀末だ…」

 そんな北京で、何事もなかったかのように晴れ渡った青空が突然、顔を見せることがあった。

「わあ!」

 思わずスマホを取り出して空をパシャリ。気付けばすぐ横でもパシャリ。みんなパシャリ、パシャリ。

 SNSは青空の写真で溢れる。

 その光景に、今度は

「平和だな」

としみじみ感じた。

 中国政府が2025年までに全国主要都市のPM2.5の濃度を2020年比で10%削減し、深刻な大気汚染が発生する日数を全体の1%以内に抑える目標を掲げていることもあり、今ではずいぶん改善されているという。

 どうか北京に青空が続きますように。

2017年5月、北京にて。

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